裁決事例の検討

書面添付の意見聴取が形式的だったとして
過少申告加算税の賦課決定処分が争われた事例

国税不服審判所 令和7年5月9日裁決/東裁(所)令6第197号(棄却・未公表)
実務メモ|2026年7月

1 どんな事例か

書面添付制度に基づく意見聴取が適切に行われなかったとして、過少申告加算税の賦課決定処分の当否が争われた事例。意見聴取の場で計算誤りを指摘してもらえなかったために、調査に移行してから修正申告することになった——という納税者側の不満が、法的にどう評価されたかを示す事案である。
結論

棄却。書面添付制度における意見聴取の在り方や調査への移行は、請求人が調査での指摘を受けて修正申告書を提出したという事実の評価に影響を及ぼすものではない、と判断された。

1-1 事実関係

請求人は、所得税等の確定申告書を法定申告期限までに提出した。この申告書には、相続税額の取得費加算(租税特別措置法39条)に係る明細書、税務代理人を記載した税務代理権限証書、および取得費加算額等について記載された税理士法33条の2第1項の書面(添付書面)が添付されていた。

その後、税務署は書面添付制度に基づく意見聴取を実施したが、請求人の主張によれば、この場で調査担当職員は取得費加算額に関する個別・具体的な質疑を行わず、計算誤りも指摘しなかった。意見聴取の約1週間後に調査の事前通知が行われ、実地調査に移行している。

時期内容加算税との関係
確定申告取得費加算額に関する添付書面を付して申告—
意見聴取実施(請求人の主張では、個別・具体的な質疑や計算誤りの指摘はなかった)調査通知前
約1週間後調査の事前通知調査通知後
翌月実地調査の開始5%
調査中調査担当職員が税務代理人に対し、取得費加算額の計算に誤りがある旨の書面を送付指摘
約2か月後調査結果の内容説明、修正申告の勧奨予知
翌日請求人が修正申告書を提出10%
その後過少申告加算税の賦課決定処分 → 審査請求—

1-2 何が問題になったのか

申告の非違の内容は、取得費加算額の計算誤りであった。つまり、意見聴取の場でその点が話題になっていれば、調査に移行する前に自主的に修正申告ができ、過少申告加算税は課されずに済んだ可能性が高い事案である。

意見聴取における質疑等のみに基因して修正申告書が提出された場合、その提出は更正があるべきことを予知してされたものには当たらないとされているためである(書面添付制度に係る事務運営指針)。

そこで請求人は、意見聴取が事務運営指針どおりに行われなかったこと自体を問題とし、加算税の賦課決定処分の取消しを求めた。

2 争点と請求人の主張

争点1 更正の予知の有無

修正申告書の提出が、国税通則法65条6項に規定する「その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合」に該当するか。

請求人の主張(要旨)

原処分庁は、意見聴取において書面添付制度に係る事務運営指針に従って個別・具体的な質疑を行い、疑問点の解明等を行う義務がある。そのうえで、

  • 意見聴取が事務運営指針どおりに行われていれば、調査へ移行する前に取得費加算額の計算誤りは判明し、修正申告することができた
  • 意見聴取の場で計算誤りを指摘しなかったことは税務署職員の義務違反であり、調査への移行は事務運営指針に反した結果行われたものである
争点2 正当な理由の有無

修正申告について、国税通則法65条5項1号に規定する「正当な理由」があると認められるか。

請求人の主張(要旨)

修正申告書を調査移行後に提出することになったのは、意見聴取が事務運営指針に従って正しく行われなかった結果、必要のない調査に移行したためである。

主張の構造

請求人の主張は、いずれも「意見聴取が適切に行われていれば加算税を課されずに済んだのだから、その手続の不備を処分の当否に反映させるべきだ」という組み立てになっている。

その根拠として挙げられたのが、事務運営指針の次の記述である。

意見聴取の機会を積極的に活用し、例えば顕著な増減事項・増減理由や会計処理方法に変更があった事項・変更の理由などについて個別・具体的に質疑を行うなどして疑問点の解明等を行い、その結果を踏まえ調査を行うかどうかを的確に判断する。
(個人課税部門における書面添付制度の運用に当たっての基本的な考え方及び事務手続等について(事務運営指針)第2章第2節3)

3 審判所の判断(棄却)

3-1 争点1について

  • 更正の予知の有無は、国税通則法65条6項の文言および趣旨からすると、調査の内容・進捗状況、それに関する納税者の認識、修正申告に至る経緯、修正申告と調査の内容との関連性に係る各事情を総合考慮して判断すべきである。
  • 請求人は調査を受け、調査担当職員から取得費加算額の計算誤りがある旨の指摘を受けて修正申告書を提出したのであるから、「更正があるべきことを予知してされたものでない場合」には該当しない。
  • 意見聴取における質疑等は、特定の納税義務者の課税標準等または税額等を認定する目的で行う行為に至らないものであり、意見聴取後に調査を行うことが排除されるものではない。したがって、意見聴取の場で課税標準等に関する質疑が行われずに調査に移行したとしても、事務運営指針に反するとはいえない。
  • 加えて、税理士法35条4項のとおり、意見聴取の有無はその調査に係る処分に影響を及ぼすものと解してはならないとされている。本件意見聴取の在り方や調査への移行は、請求人が調査において指摘を受けてから修正申告書を提出したという事実の評価に影響を及ぼすものではない。

3-2 争点2について

  • 「正当な理由」があると認められる場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当または酷になる場合をいう(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁参照)。
  • 本件確定申告が過少申告となったのは、請求人が取得費加算額の計算を誤って申告したためであり、税法の不知もしくは誤解によるものと認められるから、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があるとはいえない。
  • そもそも「正当な理由」は、当初の確定申告の税額計算の基礎とされなかったことについて問われるものである。意見聴取が行われたのは確定申告をした後のことであるから、確定申告が過少申告となったことの正当な理由とはなり得ない。
判断の骨格

争点2の判断は、時系列に着目した明快な整理になっている。「正当な理由」は申告の時点で過少申告となったことの理由を問うものであり、申告後に行われた意見聴取の在り方は、その理由になり得ない。手続の不備を「正当な理由」に読み替えることはできない、ということである。

4 実務への示唆

4-1 意見聴取の効力は「機会の付与」にとどまる

税理士法35条1項が義務付けているのは、意見を述べる機会を与えることである。次の点は一切法定されていない。

  • 当局側がどのように応答しなければならないか
  • どの程度まで疑問点を開示しなければならないか
  • 発見している非違を意見聴取の場で示さなければならないか

つまり、意見聴取は税理士が意見を述べる場であって、当局が手の内を明かす場ではない。ここが、実務家が抱きやすい期待とのズレの出発点になる。

4-2 決め手となる税理士法35条4項

前三項の規定による措置の有無は、これらの規定に規定する調査に係る処分、更正又は審査請求についての裁決の効力に影響を及ぼすものと解してはならない。

意見聴取が行われなかった場合ですら、それを理由に処分の効力を争えない。まして「意見聴取は行われたが内容が形式的だった」という主張が処分の取消事由になる余地は乏しい。

意見聴取の不備を理由に加算税の賦課決定処分を争う筋は、現行法の下では極めて厳しいと理解しておく必要がある。

4-3 「調査ではない」という位置づけは両刃である

意見聴取における質疑等が「調査」に該当しないという整理は、二つの方向に働く。

納税者に不利に働く面

意見聴取は調査ではないから、質疑が尽くされなくても、その後に調査へ移行することは妨げられない。「意見聴取で指摘してくれていれば加算税を課されずに済んだ」という主張は、制度の建付け上、成り立たない。本裁決で顕在化した面。

納税者に有利に働く面

意見聴取の質疑等のみに基因して修正申告書が提出されても、更正の予知に当たらない。調査通知前であれば、過少申告加算税は課されない。これが制度本来のメリットである。

4-4 期待ギャップの構造

実務家が抱きやすい期待制度の建付け
意見聴取で疑問点を出し合い、誤りがあれば指摘してもらえる意見聴取は税理士が意見を述べる機会。当局に非違の開示義務はない
事務運営指針が「個別・具体的に質疑を行う」と定めている以上、それは義務である事務運営指針は当局内部の事務処理の指針であり、納税者に権利を与えるものではない
手続が不十分なら処分は違法になる税理士法35条4項が、処分の効力への影響を明文で否定している

4-5 それでも意見聴取には実務上の価値がある

理由は一つ、加算税を課されずに自主修正できる最後の機会だからである。

  • 意見聴取は調査通知の前に行われるのが原則(書面添付制度に係る事務運営指針 第2章第2節1)
  • 意見聴取の質疑等のみに基因する修正申告は、更正の予知に当たらない(同 第2章第2節3)
  • 調査通知前かつ更正の予知前の修正申告には、過少申告加算税は課されない(国税通則法65条6項)

事務運営指針は、意見聴取の連絡を調査通知予定日の1〜2週間前までに行うとしている。この1〜2週間が、加算税を課されずに申告内容を洗い直せる実質的な最終期間である。

この裁決から読み取るべきこと

本裁決の教訓は「意見聴取に期待するな」ではなく、「意見聴取を受け身で迎えるな」である。

当局が非違を示唆してくれることを前提に構えるのではなく、意見聴取の連絡を受けた時点から自ら申告内容を再検証する。本件で問題となったのは取得費加算額の計算誤りという単純な非違であり、この期間に検算していれば、加算税は課されずに済んだ可能性が高い。

4-6 記録を残す

本件で請求人は「意見聴取において個別・具体的な質疑が行われなかった」と主張した。仮にこの主張が法的に意味を持つ場面(たとえば調査通知の時期をめぐる争い)であったとしても、それを裏付けるのは受け手側の記録以外にない。事前通知も調査通知も電話・口頭で行われ、書面は交付されないからである。

一方、税務署側は意見聴取について「応接簿」を作成し、相手方・応接者・応接日時・聴取内容・調査への移行の有無などを記載して決裁を経たうえで保管している(書面添付制度に係る事務運営指針 第2章第2節4)。

この記録の非対称を放置すべきではない。意見聴取や税務署からの連絡については、日時・相手方の官職氏名・やり取りの内容を、その日のうちに記録しておくことが必要である。

5 根拠条文

e-Gov法令検索および国税庁ホームページで確認した2026年7月時点の内容。

税理士法35条(意見の聴取) ※第1項・第4項が本件の中核
[第1項]税務官公署の当該職員は、第三十三条の二第一項又は第二項に規定する書面(以下この項及び次項において「添付書面」という。)が添付されている申告書を提出した者について、当該申告書に係る租税に関しあらかじめその者に日時場所を通知してその帳簿書類を調査する場合において、当該租税に関し第三十条の規定による書面を提出している税理士があるときは、当該通知をする前に、当該税理士に対し、当該添付書面に記載された事項に関し意見を述べる機会を与えなければならない。 [第4項]前三項の規定による措置の有無は、これらの規定に規定する調査に係る処分、更正又は審査請求についての裁決の効力に影響を及ぼすものと解してはならない。
第1項の義務は「意見を述べる機会の付与」にとどまる。第4項により、意見聴取の有無・内容の当否は処分の効力に影響しない。
税理士法33条の2第1項(計算事項、審査事項等を記載した書面の添付)
税理士又は税理士法人は、国税通則法第十六条第一項第一号に掲げる申告納税方式又は地方税法第一条第一項第八号若しくは第十一号に掲げる申告納付若しくは申告納入の方法による租税の課税標準等を記載した申告書を作成したときは、当該申告書の作成に関し、計算し、整理し、又は相談に応じた事項を財務省令で定めるところにより記載した書面を当該申告書に添付することができる。
いわゆる書面添付制度。この書面が添付されていることが、意見聴取の前提となる。
国税通則法65条6項(調査通知前・更正の予知前の不適用)
第一項の規定は、修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合において、その申告に係る国税についての調査に係る第七十四条の九第一項第四号及び第五号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる事項その他政令で定める事項の通知(次条第六項第二号及び第八項において「調査通知」という。)がある前に行われたものであるときは、適用しない。
争点1の中核規定。調査通知(実地の調査を行う旨・税目・期間の3項目)の前で、かつ更正の予知前の修正申告であれば、過少申告加算税は課されない。
国税通則法65条5項1号(正当な理由)
次の各号に掲げる場合には、第一項又は第二項に規定する納付すべき税額から当該各号に定める税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、これらの項の規定を適用する。 一 第一項又は第二項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となつた事実のうちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかつたことについて正当な理由があると認められるものがある場合 その正当な理由があると認められる事実に基づく税額
争点2の規定。最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決(民集60巻4号1611頁)は、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、加算税の趣旨に照らしてもなお賦課が不当または酷になる場合をいうとしている。
書面添付制度に係る事務運営指針(意見聴取の内容)
意見聴取は、税務の専門家としての立場を尊重して付与された税理士等の権利の一つとして位置付けられ、添付書面を添付した税理士等が申告に当たって計算等を行った事項に関することや、意見聴取前に生じた疑問点を解明することを目的として行われるものである。 したがって、(略)意見聴取の機会を積極的に活用し、例えば顕著な増減事項・増減理由や会計処理方法に変更があった事項・変更の理由などについて個別・具体的に質疑を行うなどして疑問点の解明等を行い、その結果を踏まえ調査を行うかどうかを的確に判断する。 なお、意見聴取における質疑等は、調査を行うかどうかを判断する前に行うものであり、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的で行う行為に至らないものであることから、意見聴取における質疑等のみに基因して修正申告書が提出されたとしても、当該修正申告書の提出は更正があるべきことを予知してされたものには当たらないことに留意する。
(個人課税部門における書面添付制度の運用に当たっての基本的な考え方及び事務手続等について(事務運営指針)第2章第2節3)。なお書きは平成24年12月19日付の一部改正で追加されたもの。請求人が主張の根拠としたのは、この前段部分である。
書面添付制度に係る事務運営指針(意見聴取の時期・意見聴取結果の連絡)
[第2章第2節2]調査担当者は、調査通知予定日の1週間から2週間前までに税務代理権限証書に記載された税理士等に対し意見聴取を行う旨を口頭(電話)で連絡し、意見聴取の日時、方法を取り決める。この場合、意見聴取は調査通知予定日の前日までに了することとし、原則として税理士等に来署依頼する方法により行う。 [第2章第2節5(2)]意見聴取を行った結果、調査の必要があると認められた場合には、納税者に対する調査通知を行う前に、税理士等に対し意見聴取結果と「調査に移行する」旨の連絡を口頭(電話)により行う。なお、この場合において、税理士等に対する意見聴取結果の連絡と併せて税理士等に対する調査通知を行うこととしても差し支えない。
意見聴取の連絡から調査通知までの1〜2週間が、加算税を課されずに自主修正できる実質的な期間となる。ただし、意見聴取結果の連絡と調査通知が同じ電話で行われることも許容されている点に注意を要する。